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記事: 建築と財布における構造美

Design Journal

建築と財布における構造美

建築と財布における構造美

強・用・美という原理

紀元前1世紀頃のローマの建築家ウィトルウィウスは、建築の要点を強・用・美(firmitas・utilitas・venustas)として整理しました。
SYRINXの財布もまた、この建築の枠組みを意識してデザインしています。

建築における強・用・美


単に壊れないことではなく、力の流れが破綻せず、構造が空間の成立に寄与していること。構造体が飾りではなく、空間を支え、秩序をつくり、安心を与える。建築の構造美とは、構造が隠されずに空間に生かされているという含意があります。


人の動き、視線、居場所、使われ方。用途に対して無理がないこと。合理的であること。建築は使われて初めて成立し、評価されます。


単なる装飾ではありません。比例、リズム、面の緊張、光の陰影。素材の表情や、全体の佇まい。人の感性が応答する秩序です。強と用を満たしただけでは、建築は長く愛されない。美が加わったときに、時間を超える説得力を得ます。

財布における強・用・美

では、この三つを財布に適用するとどうなるでしょう。

用は明快です。収納、視認、取り出し、保持、携帯性。所作の迷いが減り、必要な動作が短くなること。機能美とは、多くの場合この領域で語られます。

美もまた分かりやすい。比率、大きさ、継ぎ目、余白、そして革の表情。手に取った瞬間に伝わる凛とした佇まい。

問題は強です。財布の強さは、単に丈夫に作ることではありません。
革は、木やコンクリートと同様に、触覚や時間変化を含んだ奥深い素材です。
芯材を入れて形を固定することは可能ですが、それでは革の表層部分の特性しか活かせません。
(衣)食住に例えれば、料理で調味料によって素材の風味を隠すようなもの。建築の構造を別素材で覆い隠すようなものです。
見た目は整っても、素材本来の魅力の一部は失われます。

SYRINXの構造美

SYRINXが財布で構造美という言葉を使うとき、焦点はここにあります。
素材の特性が構造として機能し、形と操作を成立させている。つまり、革の張り、しなり、摩擦、復元力が、そのまま製品と使いやすさに活かされている状態です。ここに革製品としての構造美があると考えています。

芯材を極力使わない方針は、この考え方に基づいています。薄く漉いた革で芯材を挟めば、形は簡単に安定させられます。しかし私はできるだけ、革そのものの特性を生かして、革だけで成立させたいと考えています。これは、構造美の思想です。

例えば、Hitoe Foldのインナーフックは、この三つが交差する象徴的な例です。金物に頼らず、革のみで留め具として働きながら、カードの脱落を抑え、所作を整える。要素を増やさず、役割を集約し、素材の特性を生かして矛盾を解き、静謐な佇まいへ収束させる。

建築家として目指す財布

建築も財布も、スケールは違っても、目指す地点は同じだと感じています。
表層だけで美しさを語るのではなく、用を満たし、強を整え、美を研ぎ澄ます。
これが、建築家として財布を設計する理由であり、SYRINXが目指す美のかたちです。

(文・佐藤 宏尚|SYRINX代表・デザイナー)

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