幻のMekuru® Pen Case

SYRINXが大切にしている「デザインの背景」をお伝えする連載シリーズ「Design Journal」。その初回として、今では手に入らない「幻のMekuru®ペンケース」をご紹介します。
SYRINXの製品に共通する特長のひとつ、それは「薄さ」。このMekuru®ペンケースも例外ではありません。カバンの中でかさばらず、すっきりと収まるスマートな佇まい。さらに、「めくる」という直感的な操作感が、他にはない使い心地を生み出しています。
現在はワンサイズのみの展開ですが、かつてはLサイズのバージョンも存在していました。ところが、発売からほどなくしてLサイズの生産は終了。その理由をご存じでしょうか?
「Mekuru®」は、ケースの先端を軽く“めくる”ことで、中のペンをひと目で見つけ、すぐに取り出せる構造が魅力です。しかし、Lサイズになると、小さなペンは先端しか見えず、視認性も取り出しやすさも損なわれてしまいます。たしかに筆ペンなどの長い筆記具には対応できますが、操作にストレスが生じてしまえば、「スマートな使い心地」というデザインコンセプトに矛盾してしまいます。

発売からしばらくして、そのことに気づきました。これはもう、当初のコンセプトを失った「ただ薄いペンケース」になってしまっている、と。
このままでは、私たちが届けたかった使い心地や快適さは、きっと伝わらない。そう判断し、一度Lサイズの生産を中止し、「Mekuru®はどうあるべきか」を、あらためて見つめ直すことにしました。
「もう少し収納力があれば」「消しゴムも入れたい」――そうした声があることも事実です。けれど、本当に必要なものだけに絞り込むことで、使い心地はより軽やかに、動きは洗練されていきます。
その確信のもと、潔いデザインを追求し続けています。
SYRINXは、すべての製品において、このデザイン思想を大切にしています。
(文・佐藤 宏尚|SYRINX代表・デザイナー)