一つのアイデアが、すべてを変える

ほんの小さなアイデアが、大きな革新を生むことがあります。
一つの目立たないパーツが、SYRINXのデザインを一変させ、ブランドに飛躍をもたらしました。
それが、Hitoe Foldシリーズに組み込まれた、特許技術「インナーフック」です。
ユーザーのカードそのものを「留め具」にするという、常識を覆す発想。
従来の財布にはなかった構造でありながら、直感的に使えて、何より合理的。
このシンプルな仕掛けが、数々の課題をたった一手で解決したのです。
一般的なデザイン手法であれば、課題にはそれぞれ個別の対処がなされます。
カードの落下を防ぐには蓋をつけ、留め具にはファスナーやホックを使用。
しかしそれでは、開閉の手間が増え、不快な金属の出っ張りや厚みも生じます。
そして、構造が複雑になるほど、革の重なりが増し、薄さと明快さは損なわれていきます。
インナーフックは、それらすべてを一つの工夫で解決しました。
「引っ掛ける」ことでカードの落下を防ぎ、そのまま「留め具」として機能する。
開閉は目視せずともスムーズに行え、金物も一切使用しません。
革の重なりも増やさず、厚みの原因にもなりません。

さらに、呼応する位置に設けられたカードポケットの切り欠きは、指をかけてスムーズにカードを取り出す「手がかり」としても機能します。

安全性にも配慮があります。
Hitoe Foldを裏表逆に開こうとしても、インナーフックは外れず、開きません。
これにより、上下を間違えて開き、コインを落としてしまう事故を未然に防ぎます。
この小さなパーツがなければ、Hitoe Foldはここまで薄く、美しく、使いやすくはなりませんでした。
たったひとつのアイデアが、多くの問題を的確に、しかも美しく、スマートに解決する。
それは、多様な要件を調和的に解決する建築デザインで培われた感性に支えられた、
SYRINXが目指すデザインの真骨頂でもあります。
(文・佐藤 宏尚|SYRINX代表・デザイナー)